東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1396号 判決
控訴人(内務大臣)が被控訴人に対し昭和二十一年六月三日附をもつてなした日本国籍回復許可の無効であることを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴人の指定代表者は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文第二、三項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は被控訴人において原審では被控訴人が日本の国籍を有しないことの確認を求めたがその請求及び請求の原因を変更して控訴人が被控訴人に対し昭和二十一年六月三日附をもつてなした日本国籍回復許可の無効であることの確認を求める、なお被控訴人はかつて日本国籍の離脱をしたことがなかつたと述べ、控訴人の指定代表者において被控訴人は大正十三年二月十二日亜米利加合衆国において出生したもので旧国籍法第二十条の二第一項の規定により勅令によつて指定された外国においてその指定前に出生したのであるから同条第二項の規定により国筈離脱の方法によつてのみ日本の国籍を喪失するものであつて同条第一項の規定により日本の国籍を留保するの意思表示をしなかつたことによつては日本の国籍を喪失するものでない。しかるに被控訴人は日本の国籍離脱の手段を取つていないのであるから依然として日本の国籍を保有するものである、と述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(立証省略)
三、理 由
成立に争のない甲第一号証(戸籍謄本)及び原審証人角田ジユンの証言を綜合すれば被控訴人は大正十三年二月十二日亜米利加合衆国ワシントン州ワバト街において日本人角田作太郎を父とし、同角田ジユンを母として出生したことが認められる。従つて被控訴人は旧国籍法(明治三十二年法律第六十六号)第二十条の二第一項第二項、国籍法第二十条の二第一項の規定に依り外国を指定するの件(大正十三年勅令第二百六十二号、同年十二月一日施行)等の規定によつて右勅令により指定せられた亜米加利国においてその指定前に出生したものであるからその出生とともに日米両国の国籍を取得したものと謂わなければならない。しかるに前掲甲第一号証及び原本の存在並びに成立に争のない乙第一号証(被控訴人名義の国籍回復許可申請書類)によれば昭和二十一年五月二十二日被控訴人名義をもつて内務大臣に対し日本国籍回復の許可申請がなされたこと及び被控訴人の戸籍簿に同年六月三日附右国籍回復許可に因る国籍回復の届出によつて被控訴人が同月六日広島県佐伯郡大竹町大字小島新開七百七番地に一家を創立した旨の記載のあることが認められる。
被控訴人は右国籍回復許可申請は被控訴人の意思によらないものであるからその申請に基いてなされた該国籍回復の許可は無効である旨主張するけれども、被控訴人がその出生によつて取得した前述の日本の国籍は国籍離脱の方法によつて失うものであることは旧国籍法第二十条の二第二項の規定によつて明らかであるが被控訴人が国籍離脱の手続を取つていないことは当事者間に争なく、その他の事由によつて日本の国籍を失つたことについては被控訴人において主張立証しないところであるから、被控訴人は依然として日本の国籍を保有しているものと断ずるの外なく、従つて被控訴人の右国籍回復許可の申請は被控訴人の意思に基くと否とにかかわらず何らの意義のないものであつて右申請に基いて内務大臣のなした被控訴人に対する昭和二十一年六月三日附日本国籍の回復許可もその効力を生じないものと謂わなければならない。
しかも被控訴人は前述のように国籍回復によつて日本の国籍を取得したものとして取扱われ且つその国籍取得の経過は戸籍簿に記載されているのであるからその国籍取得の原因が国籍回復によるものでなく出生によるものとすれば被控訴人としては判決によつて戸籍を訂正する必要があるものと解すべきであり、従つて被控訴人は右国籍回復許可の無効であることの確認を求めるについて法律上即時確定の利益があるものと謂うべきである。
さすれば被控訴人の本訴請求は結局正当であるからこれを認容すべきものであつて本件控訴は理由がないけれども被控訴人は当審において前述のようにその請求を変更したのであるから原判決を変更すべきものとし、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柳川昌勝 浜田宗四郎 菅野次郎)